腕を広げ胸を反らす。赤い球状の光が自身の周囲で弾ける。
大戦時、原野に陣取る獣人軍の後背を突くため、連合軍旗下の
王立騎士団第一連隊が密かに構築した地下要塞。
【ガルレージュ要塞】。
【レベルシンク】。
リーダーが定めたパーティメンバーより、レベルが高い面子は
同じレベル帯に揃えられる便利な制度のお陰で、かつてなら
オイシクない狩場でもレレルマゲを楽しむ【踊り子】のウチ。
要塞入ったトコの階段付近。
中堅冒険者様が一度は足を踏み入れるココで狙うは、古参の
冒険者様には顔馴染みであるコウモリがその日の獲物。
周囲に赤い球状の光が爆ぜる。
敵に対して自分を攻撃するようにしむける踊り子特有の能力、
【A.フラリッシュ】を使い前衛の立ち位置だった当初の場所に
敵を誘導する。
ゼロ「頼むから固定してくれ」
同じパーティ内にいる【ナイト】様や【戦士】様に言いたい気持ちが、
恐らく内部で充満中。
「獲物は盾役に固定し、後衛様には敵の攻撃を向けさせない」。
暗黙の了解が、かつてはあった。
獲物をガッチリと眼前に固定する事。
それが盾役が己に課すルールであり矜持だと思っている。
それが出来なかったウチは、盾役として目立たない、というか、
なるべくなら敵のターゲットは取らないでいようとしていた。
今は違う。
獲物の固定に腐心するより犠牲者さえなければ、殺られる前に
殺れ的な速攻スタイルが主流で、かつ、その方が時間あたりの
得られる経験値は多い。
その結果、敵のタゲが【あっち】【こっち】にフラフラする場合がある。
今見つめているのと、冒険した当時に感じた印象は多分、逆。
ダラダラした時間の中でPC内に貯めてた、このスクリーンショットを
眺める。
中近東を思わせるような白門のBGMが、部屋のBGMとして、今、
ウチの鼓膜を振るわせる。
モニターの向こうの量産型を白門の階段脇に座り込ませて、
中身のウチはPCの前で寝そべっている。
遅めの夏休みも今日で5日目。
20年は母方の実家に帰省してない後ろめたさも手伝って、
上司や同僚より「帰省するのが普通」「けしからん」「親不孝者」と
言われてても、PCの前から腰が上がらなかった、この数日。
そんなの決まってるだろ的暗黙の了解風に言われてもさあ。
「ウチが生まれてから近親者に不幸がないんだから、墓参りとか、
親戚回りするとか、帰省するとか要らないんじゃね?」
社会に出てから何年も地元に帰っていないウチはそう考えていた。
現代社会で、何を古い因習に捕らわれていらっしゃるのか、と。
便りが無いのが良い便り、で良いんですよ、と。
一方でヴァーチャルでは、「盾役は後衛様を守ってナンボ!」と、
今のヴァナ世界にそぐわない過去の習慣に未だ愛着を感じている。
「今日は何もありませんでした」、って報告書を書いておけ。
ベテランの和久巡査長は、新米刑事の青島巡査部長に言う。
その日の冒険をSS、スクリーンショットに一枚撮る。
後日、それに近況を綴ってwebでブログとしてアップする。
別に特殊な状況や得意な出来事である必要はない。
ドラマの「踊る」のヒトコマと同じ。
一年近く前の出来事と、今、書こうとしている近況に隔たりがある、
という事もあるだろうけど、自身にとっては日記を付けるに等しい
気楽な作業のハズが、この画像では出来ずにいた。
現実でもヴァナでも、ウチが考える事も、周りが言う事も、別に
ドッチも間違ってはいない。
じゃあ、別にイイじゃん。
散々考えた挙句、たどり着いたのはシンプルな答え。
かつてヴァナ世界に存在した習慣に愛着を感じつつも、ハイハイと
現在主流の戦闘様式に順応した結果、軽やかなスピードで目標の
レレルを1つばかり余計に超えちゃった様に。
【踊り子】38>>41。
時代が(大きく出るトコが痛い)ウチに追いつくまで顔を見せに行く。
それくらいのコト、別にイイじゃん。
明日、帰省しよう。お土産は何を持っていこうか。