ゴウン。
そんな音と共に画面が切り替わり、船が埠頭から離れてゆく。
たとえ誰かが言葉を発していても、発していなくても、判る。
さざ波より早い速度で乗り合わせた冒険者の興奮が広がる様が。
丹下左膳。
そんな某時代劇の主人公にちょっと似た、韓国めん使用の極辛麺を
近所の韓国料理屋で食べて、額に汗ダラダラ流しながら帰宅した
日曜日の昼間。
家に戻りログを少し前に辿ると、外出前にうっかり消し忘れていた
テレビモニターに流れる無邪気な一文を見つけた。
「いくー?」
爺鯖のサルバドール・ダリこと奇才
里さまからの新大陸渡航の
お誘い。
午前の【竜騎士】レレルマゲが全くお誘いの声が掛からずに、
不調に終わったウチの答えは決まっている。
というよりフテ腐れて、独りでも渡航しようと少し切ないような曲が
流れる港町【マウラ】に外出する前から放置してたくらいだ。
そこに、偶然ログインしてきた不幸な凄腕冒険者、
【氷】の方。
ソッコー拉致して結成した冒険者三人組。
南欧の陽気な港町を思わせる曲が流れる港町【セルビナ】に行きの
機船と7~8分の間隔を置いて交互にやってくる皇国行き機船。
見知らぬ多数の冒険者と先を争うように船着場に殺到する。
現実だと間違いなく船の喫水線が乗り込んでる乗客の重みで許容より
30センチは沈んでるじゃないかという船内の人口密度。
ゴウン。
誰かが言葉を発していても発していなくても、判る。
さざ波より早い速度で乗り合わせた冒険者の興奮が広がるさま。
船内から画面が切り替わって、皇国に向けてマウラ港の埠頭から
機船が離れてゆく。
出港。
航海のテーマ曲。青い空の質感。雲のたなびく模様。海面の色。
セルビナ行きの機船と違う点を見つけては、我ながら煩わしい程
お二人に相違点を申告してゆく。
じっとして、いられない。
船首の先から船尾までグルグルと甲板上を駆けずりまわる一人の
【獣使い】。
誰かが釣り上げたアンコウの姿に似たNMを甲板にいる冒険者と
共に集団でタコ殴りにしたり。
【氷】の方が初めて皇国行き機船上、姿を見たという鯨の鳴き声を
聴いた気がして一目その姿を見ようと甲板をウロチョロしたり。
航海時間15分間はあっという間。
まもなく皇国領の港に到着する旨、メッセージが流れる。
陸地に現れる皇国領の建造物は、先端が煌びやかに彩られた
青色だか金色の丸みを帯びた煌ドームで覆われた建造物。。。
いつの間にか青空から砂塵が舞う灰色の雲が立ち込めた空の下、
目の前に姿を現した皇国領はウチの予想とは違っていた。
目に映るソレは「ジョジョ」第三部
スターダストクルセーダーズでの
終盤の舞台エジプトで描写されてるような、四面が鋭角で構成された
塔が立ち並ぶ土色の壁を持つ街の外観。
ブルっときた。
「中の国」とも呼ばれているらしい渡航前の大陸にある、生まれ故郷の
量産型脳筋共和国とも首長王国とも小人猫耳連邦とも違う、異質な
趣をもった国。
この地で繰り広げられるだろう冒険と勝利、そして語り草になる筈の
ぷりけtを愉快に想像しながら、船から新大陸の第一歩を踏み出した。
アッサラーム、アトルガン皇国。